全て

経営者の財布と資金繰りの闇

「黒字倒産」という言葉があるように、ビジネスにおいて最も恐ろしいのは赤字ではなく、「手元の現金(キャッシュ)が尽きること」です。
銀行融資が間に合わない、急な支払いで明日までに現金が必要・・・そんな極限状態で、経営者の脳裏をよぎる一つの手段があります。
それが「クレジットカードのショッピング枠を現金化」するという方法です。

しかし、これは多くの専門家が「破滅への入り口」と警鐘を鳴らす行為でもあります。
今回は、経営者のクレジットカード事情や正しい活用法を紐解きながら、なぜ現金化が議論の的になるのか、そのリスクと本質について深く考察していきます。

経営者が持つクレジットカードの平均枚数と、その戦略的意図

一般的に、日本国内における成人のクレジットカード平均保有枚数は、2枚〜3枚程度と言われています。
しかし、これが「経営者」や「個人事業主」という属性になると、数字は少し変わってきます。

経営者の平均保有枚数は「3枚〜5枚」が定石

公式な統計として経営者限定の正確なデータは少ないものの、多くのファイナンシャルプランナーや経営者向けメディアの調査によると、経営者が持つクレジットカードの平均枚数は「3枚〜5枚」程度であるケースが多いとされています。
これには明確な理由があります。

公私の区別(経費精算の効率化)
最も基本的な理由ですが、プライベート用と事業決済用を分けるためです。
利用限度額(与信枠)の確保
事業用カード(ビジネスカード)であっても、設立当初は限度額が数十万円〜100万円程度に抑えられることが少なくありません。
仕入れや広告費の支払いで枠が埋まってしまうことを防ぐため、複数枚のカードを持ち、合計での利用可能枠(与信総枠)を確保します。
リスクヘッジ(カード停止への備え)
システムトラブルや、不正利用検知による一時的なロック、あるいはカード会社の判断による利用停止など、1枚しか持っていない場合のリスクを分散させる目的があります。

「枚数」が意味する財務戦略

単に「ポイントが貯まるから」という理由で枚数を増やしている経営者は稀です。
彼らは「支払いサイクルの分散」を意識しています。

Aカード : 15日締め・翌月10日払い
Bカード : 月末締め・翌月27日払い

このように締め日と支払日が異なるカードを組み合わせることで、手元のキャッシュアウト(現金の流出)を最大で60日近く後ろ倒しにする。
これこそが、経営者がクレジットカードを複数枚持つ最大の戦略的理由、「キャッシュフローの改善」です。

本来あるべき「クレジットカードの使い方」

前述の通り、クレジットカードは本来「短期的な無利息融資」のツールとして機能します。
商品やサービスを先に受け取り、支払いは1ヶ月〜2ヶ月後に行う・・・このタイムラグこそが、資金繰りにおける強力な武器となります。

信用(Credit)を積み上げる使い方

クレジットカードの使い方において最も重要なのは、支払日に遅れずに払うことです。
当たり前のように聞こえますが、これが銀行融資における審査にも影響します。
クレジットカードの利用履歴(クレジットヒストリー)は、信用情報機関(CICなど)に記録されます。
毎月一定額を利用し、遅延なく返済している記録は、「約束を守る経営者である」という客観的な証明書になります。

ポイント還元をバカにしない

事業決済では金額が大きくなりがちです。
広告費やサーバー代、仕入れなどで月間100万円決済する場合、還元率1%のカードであれば毎月1万円、年間12万円相当のポイントが還元されます。
これを備品購入や出張費(マイル)に充てることは、立派なコスト削減策(利益の創出)となります。

危険な使い方:リボ払いの常習化

一方で、絶対に避けるべき使い方が「安易なリボ払い」です。
年利15%〜18%という高金利は、事業利益を容易に食いつぶします。
リボ払いは「借金」であり、資金繰りが苦しいことを自ら証明しているようなものです。
これに手を出し始めると、次章で解説する「現金化」の誘惑に抗えなくなってきます。

禁断の果実「クレジットカードのショッピング枠を現金化」とは

ここからが本コラムの核心です。
通常のキャッシング枠(現金を借りるための枠)を使い切ってしまった、あるいは元々キャッシング枠が設定されていないカードしか持っていない場合、資金調達の最終手段としてクレジットカードのショッピング枠を現金化を行う人々がいます。

なぜショッピング枠が現金になるのか

仕組みは単純です。
本来は「買い物」をするためのショッピング枠を使って、換金性の高い商品を購入し、それを売却して現金を得る行為です。

買取方式
業者が指定した商品をカードで購入し、その商品を業者が買い取ることで現金を渡す。
キャッシュバック方式
安価な商品を法外な値段(例えば100円のアクセサリを10万円など)でカード購入させ、特典として現金をキャッシュバックする。

表面上のメリットと、裏にある巨大なコスト

メリットは「即日、審査なしで現金が手に入る」ことでしょう。
カードのショッピング枠さえ空いていれば、誰でも利用できてしまいます。

しかし、そのコストは甚大です。

例えば、10万円の商品をカードで購入し、手元に8万円の現金がくるとします。
この場合、換金率は80%です。

一見、2万円の手数料を払っただけに見えますが、後日カード会社には10万円を支払わなければなりません。
これを金利に換算するとどうなるでしょうか?
わずか数週間〜1ヶ月後に返済が必要な短期資金に対し、20%もの手数料(ディスカウント)を払うことは、年利換算すると数百%〜数千%という、法定利息を遥かに超える超高金利で借金をしているのと同じ計算になります。

事業利益率が10%〜20%の世界で戦っている経営者が、数百%のコストを支払って資金調達をする。
これが、経済合理性において完全に破綻している行為であることは明白です。

現金化が孕むリスク——規約違反と法的側面

高いコストだけではありません。
「ショッピング枠の現金化」には、経営生命を絶ちかねない致命的なリスクが存在します。

カード会社による強制解約と一括請求

ほぼ全てのクレジットカード会社の利用規約において、換金目的でのカード利用は明確に禁止されています。
カード会社は高度な検知システムを持っており、「普段と違う高額決済」「換金性の高い商品(新幹線の回数券、ブランド品、貴金属など)の連続購入」などを常に監視しています。

現金化が発覚した場合、カードは即時利用停止(強制解約)となり、さらに恐ろしいことに「利用残高の一括請求」が行われます。
資金繰りに困って現金化したのに、残高を一括で請求されれば、その時点で破産へのカウントダウンが始まります。

信用情報機関への登録(ブラックリスト)

強制解約の事実は信用情報機関に登録される可能性があります。
「規約違反による解約」という履歴が残れば、今後数年間、新たなクレジットカードを作ることも、銀行から融資を受けることも絶望的になります。
経営者にとって、これは「死刑宣告」に等しいでしょう。

詐欺罪に問われる可能性

極めて稀なケースですが、最初から代金を支払う意思がないにも関わらず、現金化目的でカード決済を行った場合、詐欺罪(刑法246条)に抵触する可能性も法的にはゼロではありません。
また、悪質な現金化業者に関わることで、反社会的勢力への資金提供や、個人情報の流出といった犯罪トラブルに巻き込まれるリスクも高まります。

なぜ経営者は現金化に走ってしまうのか

これほどのリスクがありながら、なぜ後を絶たないのでしょうか。
それは、経営者が陥る「正常性バイアス」と「サンクコスト効果」が関係しています。

今月の支払いさえ乗り切れば、来月の入金でなんとかなる
今まで育ててきた会社を潰したくない

そのような焦りが、冷静な判断力を奪います。
銀行の審査には数週間かかりますが、現金化なら数十分で終わります。
溺れる者が藁をも掴む心境の時、目の前にぶら下がった「即金」という蜘蛛の糸は、あまりにも魅力的に見えるのです。

しかし、その蜘蛛の糸は、地獄へ繋がっています。
一度現金化に手を出すと、翌月の支払い負担がさらに増し、それを補うためにまた別のカードを現金化する・・・という自転車操業(多重債務)のスパイラルから抜け出せなくなります。

現金化を考える前にすべきこと——代替案の模索

もし、あなたが今、「クレジットカードのショッピング枠を現金化」しなければならないほど追い詰められているなら、まずは立ち止まってください。
それは資金調達ではなく、問題の先送りに過ぎません。
検討すべきは以下の正規の手段です。

ファクタリング(請求書買取)

企業間取引(BtoB)を行っている場合、手持ちの売掛金(請求書)を業者に売却して現金化する「ファクタリング」という手法があります。
手数料はかかりますが、カード現金化とは異なり、法的に認められた正当な債権譲渡取引です。
借金ではないため、信用情報への影響もありません。

ビジネスローンの活用

銀行融資(プロパー融資)は審査に時間がかかりますが、ノンバンク系のビジネスローンであれば、最短即日で融資を受けられる場合があります。
金利は高めですが、カード現金化の実質コストよりは遥かに低く、法的な保護の枠内で取引が可能です。

支払いサイトの交渉とリスケジュール

取引先への支払い待ってもらう、あるいは金融機関への返済条件の変更(リスケジュール)を申し出ることも、恥ずかしいことではありません。
誠意を持って現状を説明し、倒産を回避することが、結果として債権者のためにもなるからです。

カードは「魔法の杖」ではなく「諸刃の剣」

経営者の財布と資金繰りの闇 その2

クレジットカードは、現代の経営において不可欠なツールです。
経営者が持つクレジットカードの平均枚数とされる数枚のカードを巧みに使い分け、支払いサイトをコントロールし、ポイント還元や付帯サービスを享受する。
これは、賢い経営者のクレジットカードの使い方です。

一方で、その枠を錬金術のように扱い、ショッピング枠を現金化しようとすることは、自らの信用を切り売りし、未来の売上を法外な安値で先食いする行為に他なりません。

クレジットカードの限度額は、あくまで「カード会社が一時的に立て替えてくれているお金」であり、「自分の資産」ではありません。
この当たり前の事実を見失ったとき、経営の歯車は狂い始めます。

もし資金繰りが苦しいのであれば、グレーゾーンの現金化業者に電話をする前に、税理士や弁護士、あるいは商工会議所の相談窓口など、専門家に相談してください。
「現金化しかない」と思い込んでいる視野狭窄の状態から、別の解決策が見つかる可能性は十分にあります。

カードは、経営を加速させるエンジンにもなれば、破綻を招く凶器にもなります。
そのハンドルを握っているのは、他ならぬあなた自身なのです。

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